1.国連:女性に対する暴力の撤廃は国際的に重点が置かれた大きな問題

女性が暴力から開放された生活を送る権利は、女子差別撤廃条約(CEDAW)のとりわけ一般勧告12および19、および女性に対する暴力撤廃に関する国連宣言(1993年)といった国際条約によって認められています。

UNウィメン日本事務所のウェブサイト

国連をはじめとする国際社会の議論において、女性と女児に対する暴力は深刻な人権侵害であり、人生にわたる深刻で長期的な影響を与えるだけでなく、これが、女性の社会への参画を阻んでもいると捉えられています。また、暴力は女性にとってのみならず、家族、地域社会、国家全体にとってもマイナスの結果をもたらすものと考えられています。

SDGs

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」 目標5:「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」においても、女性に対する暴力が言及されています。

(UN Womenのウェブサイトより)

コロナ(Covid-19)パンデミックと女性に対する暴力


2020年4月に国連事務局長は、90か国がロックダウン(都市封鎖)状態にある中、それは女性に対する暴力という隠れたパンデミック(世界的大流行)が増加しているという警告を出しました。

この問題提起に呼応して、世界各国で、女性に対する暴力の緊急の対策が強化されました。

2.イスタンブール条約 欧州評議会

「女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約」(The Council of Europe Convention on preventing and combating violence against women and domestic violence)、通称イスタンブール条約(The Istanbul Convention)は、2011年5月11日にトルコのイスタンブールで署名された女性に対する暴力と家庭内暴力に反対するための欧州評議会の国際人権条約で、いわば、ジェンダーベイスト・バイオレンス対策のグローバル・スタンダードです(2014年発効)。2023年9月現在、45ヶ国とEUが署名しています

同条約では、締約国に対し、以下のような行為を刑罰化するか、またはその他の方法で制裁することを求めています。 ドメスティック・バイオレンス(身体的、性的、心理的、経済的暴力)、ストーカー行為 、レイプを含む性暴力、セクシャルハラスメント、強制結婚、女性器切除、強制中絶、強制的な不妊手術。

また、締約国は必要な立法その他の措置をとって、以下のような被害者支援対策をしなければならないとしています(第20条)

  • 回復支援(法律相談・心理カウンセリング、経済的援助、住居、教育、訓練、就労支援)に被害者がアクセスできることを保障
  • 被害者が医療・保健的ケア・社会的支援サービスにアクセスできることを保障
  • 支援についての十分な資源が配分されること
  • 必要な専門家の育成・訓練
  • この条約の適用範囲にあるどの暴力行為を受けた被害者に対しても、どの地域でも即時的、短期的および長期的な支援がされること
  • 暴力の被害を受けたすべての女性およびその子どもに専門的な女性支援がされること
    (第22条 専門的支援)
  • 適切で、容易にアクセスできるシェルター:十分な数を設置すること
  • 被害者に対して積極的に援助のための働きかけを行なうこと(第23条 シェルター)
  • 女性のための電話相談: 24時間365日 匿名無料のものが少なくとも全国に1つ。
  • すべての地域に女性シェルターがあること(最低基準:住民10,000人に対して1か所)
  • 性暴力センターを含む女性センター(住民 20万人に対して1か所)
  • 母親に対する暴力を目撃した子どもへのカウンセリング
  • また、同条約では、締約国の政策状況を調査するモニタリング委員会(GREVIO)を持っています。

日本語パンフレット

関連ウェブ記事

3.暴力及びハラスメント条約 ILO

ILO(国際労働機関)暴力及びハラスメント条約(第190号)(第108回総会で2019年6月21日採択。条約発効日:2021年6月25日。日本は未批准)

仕事の世界における暴力とハラスメントは、人権の侵害または乱用に当たるおそれがあることや、機会均等に対する脅威であり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と両立せず、容認できないものであることを同条約は認めています。また、家庭内暴力が仕事の世界に影響を及ぼすおそれがあることにも留意しています。
条約は、「暴力及びハラスメント」について、ジェンダーに基づくものを含み、「一回限りのものであるか反復するものであるかを問わず、身体的、心理的、性的又は経済的損害を目的とし、又はこれらの損害をもたらし、若しくはもたらすおそれのある」一定の容認することができない行動及び慣行またはこれらの脅威と定義し、加盟国にはその存在を「一切許容しない一般の環境の醸成」を促進する責任があることに注意を喚起しています。そして、仕事の世界における暴力とハラスメントの防止・撤廃のための包摂的で統合され、ジェンダーに配慮した取り組み方法を、第三者が関与する場合があることも考慮に入れた上で採用することや、仕事の世界における暴力とハラスメントを定義し禁止する法令の制定などを通じて、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対する全ての者の権利を尊重、促進、実現することを批准国に求めています。(ILO駐日事務所ウェブサイト)

4.G7サミット(2023年広島)

2023年G7サミットの首脳コミュニケでも、ジェンダー平等の達成は一つの項目となっており、その中に「我々は、紛争に関連した性的暴力及びジェンダーに基づく暴力を撲滅するための取組の強化及びサバイバー中心のアプローチを用いて、被害者・サバイバーに包括的な支援と意義のある参加を提供する重要性にコミットする。
我々はさらに、あらゆる形態の、性的及びジェンダーに基づくオフライン及びオンラインにおけるハラスメントや虐待、援助に関連した性的搾取や虐待を撲滅することにコミットする。」(政府 仮和訳)という文が含まれています。
原文 
We commit to strengthening our efforts to eliminate conflict-related sexual and gender-based violence, and the importance of providing comprehensive support and meaningful participation for victims and survivors, using a survivor centered approach. We further commit to eliminating all forms of sexual and gender-based harassment and abuse both offline and online as well as aid-related sexual exploitation and abuse.

5.ファミリー・ジャスティス・センター方式

ファミリー・ジャスティス・センター方式
アメリカの検察官 Casey Gwinnさんが提唱し、2000年に始めたもの。子ども虐待や、DV、性暴力被害者、高齢者虐待被害者などが一か所であらゆる支援を受けられる多機関連携(警察なども含め)ワンストップ型の相談センターのタイプで、世界各国で大きく広がってきています。