DVや性暴力については、全国(内閣府、法務省)や各地方自治体による調査、また様々な観点から研究者が行っている実態調査などがあります。
また、警察が事件として把握する件数(DV、ストーキング、虐待、犯罪など)や、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数、裁判所の保護命令の件数などの面から状況をみる方法もあります。


1.実態調査

(1)内閣府 「男女間における暴力に関する調査」(令和5年度調査 層化2段無作為抽出で選んだ全国18歳以上59才以下の男女5,000人を対象に調査票で行った調査、有効回収率59%)によると:
①DV(配偶者間)では
女性の3.8%、男性1.9%、が配偶者からの身体的暴行(設問でのきき方「例えば、なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたり、体をおさえつけたり、首を絞めたりするなどの身体に対する暴行など」)を「何度も」経験をしており、
心理的攻撃(設問でのきき方「例えば、人格を否定するような暴言、交友関係や行き先、電話・メールなどを細かく監視・制限したり、長時間無視するなどの精神的な嫌がらせ、あるいは、自分もしくは自分の家族に危害が加えられるのではないかと恐怖を感じるような脅迫など)は、女性の9.2%、男性の5.8%が「何度もあった」。
経済的圧迫(「例えば、生活費を渡さない、給料や貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害されるなど」)は女性の4.8%、男性の2.7%が「何度もあった」。
性的強要(「例えば、嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見せられる、同意していないのに性的な画像・動画を撮影される、避妊に協力しないなど)は女性の3.1%、男性の0.5%が「何度もあった」。

これらの色んなタイプのDV行為のうち、今回、心理的な攻撃、いわゆる精神的DVの被害割合が一番高いという結果になりました。
それは当然のように思われますし、他国の調査では精神的DVが身体的DVよりも前から高い傾向が見られたのですが、日本ではこれまでは身体的DVの方が高い割合になっていました。
今回の調査では、アンケート調査の設問で、かなり具体的な例をいくつも書いたこと(他国の調査の方法と近くなっている)、また「モラハラ」など世間の人々も精神的DVもDVなのだと認識する人が増えたことなどが、影響しているのではないかと考えられます。

こうした、何らかのDV被害経験がある人(全体の25.1%、462人)のうち、女性の15.6%、男性の7.5%が、それによって「命の危険を感じた」と回答しています。

グラフ)配偶者からの被害経験の有無

②DVと児童虐待
 これまでに配偶者からDVを受けたことがあり、子どもがいる人(399人)のうち、30.8%の人は、子どもへの虐待被害もあったと答えています。

③交際相手からのDV
これまでに交際相手がいた人のうち、交際相手からDVを受けた経験は、女性の22.7%、男性の12.0%で、そのうち、命の危険を感じた人は、女性が23.3%、男性が7.2%いて、交際相手からのDVも深刻であることが示されています。

グラフ)交際相手からの被害経験の有無

グラフ)交際相手から被害経験のある人のうち、命の危険を感じた経験

④ストーキング被害
今回のこの調査では、ストーキングの被害についてもたずねており、被害経験のある人は10.2%(女性14.0%、男性5.7%)とあり、こちらも少なくない人が経験していることがわかります。

性暴力については、
同調査では、刑法改正があったので、「不同意性交等をされた被害経験」(性交、肛門性交、口腔性交、又は膣・肛門に身体の一部もしくは物を挿入する行為)と言うきき方になっていて、女性 8.1%、男0.7%があったと回答しています。
被害者のうち「警察に連絡・相談した」人は1.4%しかいません。

DVの実態を調査でどのように把握すべきかの方法論については、ここ数十年の間で、世界の研究者の間で、議論が重ねられ、改善されようとしています。


*発生率について

 例えば本人が記入するアンケート調査で「怒鳴ったことがある」などという選択肢を選んで、それを「DV行為」として扱うような安易なものもありますが、本来の社会調査は、調査票の調査でも調査員が面談して質問し、調査票に記入するものです。精神的なDV、支配とコントロールの状態を聞き取るための、もう少し工夫された質問票などが、WHOの調査チームなどで作成され、同一の方法の調査が多くの国で行われ、比較されています。
 また、同じ「怒鳴った」「殴った」という行為があっても、一度きりの衝突、対等な関係性のカップルの中でのケンカと、DV的な支配・虐待を分けて分析しようという研究者の議論もあります。

(2)『ドメスティック・バイオレンス―実態・DV法解説・ビジョン』「夫(恋人)からの暴力」調査研究会 2002年 (有斐閣選書) *日本で初の実態調査
(3)フェミニストカウンセリング堺DV研究プロジェクトチーム『「夫・恋人(パートナー)等からの暴力について」調査報告書』1998年10月
(4)吉浜 美恵子, 秋山 弘子, 戒能 民江, ゆのまえ 知子, 林 文, 釜野 さおり『女性の健康とドメスティック・バイオレンス ーWHO国際調査に本調査結果報告書』2007年 新水社
(5)平成10年、東京都「女性に対する暴力」調査中の「夫やパートナーからの暴力」被害体験者面接調査 
   東京都生活文化局『「女性に対する暴力」調査報告書』平成10年3月
(6)内閣府「配偶者等からの暴力に関する事例調査」2002年(平成13年11月)
  その他内閣府の各種調査のリストはこちら

◇様々な属性の人々のDV被害実態についての調査資料
(7)NPO法人OVA「性を問わないDV被害に関する実態調査と新しい相談体制の検討 」2021年12月  
(8)「あらゆる性別を包括するドメスティック ・ バイオレンス政策への課題」北仲千里 国際基督教大学『ジェンダー&セクシュアリティ』 no.5, pp.95-109, 2010
   シェルターネットの全国シェルターシンポジウムの分科会で議論するために2007年10-11月に全国の都道府県婦人相談所にLGBTのDV被害者の   
支援実態などについて調査を行ったもののまとめです。
(9)「性的マイノリティのパートナーからの暴力(DV)被害と相談行動に関する調査 : 第一次集計分析」釜野 さおり・北仲 千里・藤原 直子「LGBTsIPV研究プロジェクト」
(10)アジア・女性シェルターネット(ANWS)調査チームによる、各国の調査結果
   北仲 千里「アジアにおける「ジェンダーに基づく暴力」の実態と対策―アジア・シェルターネットワークによる調査から」『国際ジェンダー学会誌』 15号 2017年12月
(11)アジア・女性シェルターネット(ANWS)調査チームによる、各国の調査結果
   調査報告書「台湾・マレーシアにおける女性に対する暴力被害者支援の研究」(2016年3月)北仲 千里、井上 匡子、清末 愛砂、松村 歌子、李 妍淑
(12)デートDV調査レビュー
   赤澤淳子「国内におけるデートDV研究のレビューと今後の課題」 『福山大学 人間文化学部紀要』 16 128-146, 2016年

◇性暴力の実態調査等
(13)齋藤梓・大竹裕子編著 『性暴力被害の実際 被害はどのように起き、どう回復するのか』金剛出版 2020年
(14)NPO法人しあわせなみだ 報告書「障害児者の性暴力が認められる社会へ」 障がい児者への性暴力に関するアドボカシー事業 報告書 2022年4月


◇その他

 刑法(性犯罪)改正をめぐる法制審議会の中で様々に紹介された性暴力被害の実態や、対策についての情報は、こちらの審議会議事録で読むことができます。


男性の性被害について取り上げた文献
 ガートナー『少年への性的虐待——男性被害者の心的外傷と精神分析治療』2005年 作品社
 宮地尚子『トラウマにふれる―心的外傷の身体論的転回』2020年 金剛出版

2.相談件数などについて

(1)警察庁のDV、ストーキングの件数発表はこちら
(2)DVの配偶者暴力相談支援センターへの相談件数の発表はこちら(内閣府ウェブサイト)
(3)裁判所のDV防止法保護命令 「司法統計」「民事・行政事件」と年度を選択して検索しましょう
(4)よりコンパクトにまとめられている情報を見たい場合は、男女共同参画白書
(5)内閣府「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを対象とした支援状況等調査」報告書」(令和2年3月)
(6)婦人相談所 婦人保護事業統計 厚生労働省 福祉行政報告例